Home > コラム「井門隆夫のCS宣言」
2011.08.22

5年後をイメージしよう。

最近、観光地や旅館の中期計画作りに携わる機会が増えてきました。金融機関等の第三者に説明するうえでも大切な計画ですが、これまであまり重視されてこなかったと思います。

「5年先のことが今からわかるか」。そういう経営者が時々いらっしゃるのには辟易します。しかし、明らかなことがあります。それは、あと5年間は65歳以上の高齢者が増えること。そして、その後は全ての世代にわたり人口減少が始まることです。都市計画の分野では、すでに「スマートシュリンク」を標ぼうし、コンパクト化により高齢者に優しいまちづくりを進めるとともに、居住エリアの縮小によって行政コストを削減していく方向にあります。加えて、エネルギーの自給も見据え始めています。旅行業も、グローバル戦略を掲げ、海外での旅行業進出により、国内旅行依存からの脱却を進めていくことでしょう。メーカーと同じです。

北海道では、節電の影響に背中を押され、「滞在型」へのシフトが始まりました。ニセコワイス寶亭留、あかん遊久の里鶴雅など、先見の明のある経営者の旅館は、脱・1泊2食を向き始めました。これは一過性ではありません。

収益計画を1泊2食前提とせず作ること。これが、旅館業に与えられた中期計画のポイントです。

少しでも滞在時間を長く、消費機会を多く、という方向性はまちづくりでも同じでしょう。そのために、暮らしやすいまちの整備はもとより、何度も滞在したくなるソフト作りと、それを企画する体制づくりが大切。広く浅くの旧来の観光協会型から、観光客との深く長い付き合いを創造する「まちづくり会社」型への転換も、この5年間に行うべきことでしょう。

この5年間には、実に多くの旅館が淘汰されると思いますが、仕方ありません。生きていくためには、旅館業に固執しなくともリセットして生きていけますし、もっと魅力的な事業もあるので頑張って欲しいと思います。

震災後、時代は大きくエコ・モードに舵を切りました。1泊2食の単価ダウンは、このまま永遠に続くでしょう。人口減少という自明の理を、どれだけ自らの経営計画に落とし込めるか。それが、生き残りのパスポートになることでしょう。

2011.07.17

ナラティブ・ツーリズム(物語観光)の夜明け

7月1日、今年も石川県内のお菓子屋さんの店頭に「氷室饅頭」が並ぶ季節がやってきました。その昔、加賀藩が幕府に氷室の氷を献上した日にちなみ続けられるこの風習。県内の方々には馴染み深いことでしょう。この日、金沢に行けないものか。毎年、縁起ものの酒饅を目当てに旅を企むのが楽しみです。

饅頭好きだから甘党かといえばそうではなく、どちらかというと私は左党。

9月9日、重陽の節句。石川県内では、夏の間、樽の中で熟成され、まろやかさが増した日本酒、「ひやおろし」が一斉に解禁されます。一週間前に解禁された日本海の「底引き漁」で揚がった新鮮な甘エビやのどぐろをサカナに、今年の新酒をたしなむことが待ち遠しくてなりません。菊の節句ですから、菊のつく名前の酒蔵からでも買ってきましょうか。

11月、ずわいがにの解禁で日本海が賑わうのをよそ目に、11月下旬、私は長野県の伊那地方にこもります。なぜって、11月15日の狩猟解禁を境に出回る信州ジビエを求めて大鹿村の温泉にかけつけるから。鹿塩温泉から取れる珍しい山塩を振っていただく猪のグリルにしましょうか。それとも、雲海を眺めつつ入る赤石荘の露天風呂の湯上りに、地元の棚田米で醸した銘酒「おたまじゃくし・晩秋ひやおろし」を傾けつつ、新鮮な鹿刺しをいただきましょうか。

日本各地には、おいしい「解禁日」がごまんとあります。それも、オフシーズンと言われる季節に。

地元から門外不出の情報に、一人ひとりの旅の「ものがたり」が紡がれていきます。そんな旅の提案ができる地域こそが、これからの勝ち組となっていくはずです。ただ、全国各地、まだまだ「物語構成力」が足りませんが!

そんな地域のために、日本文化研究センターの白幡洋三郎先生を中心に、日本各地の「物語」を研究・発信するため、産官学の有志が集まり「ものがたり観光行動学会」が立ち上がりました。

第1回年次(全国)大会は10月15日(土)。尼崎で開催されます。物語構成力の強化に悩む全国の皆さん、この日尼崎に集まりませんか!

2011.02.16

まちづくりの第一歩はPR~地元が気づかない地域資源

この冬、一番思い出に残っている光景は、四国・祖谷渓で早朝に観た「雲海」。放射冷却でぎんぎんに冷えた晴天の朝、谷あいにもくもくと朝もやがわき、雲海となっていく様子は、自然の生業とはいえ、目頭が熱くなりました。

一年のうち一時期にしか発生せず、それも天候により出たり出なかったりの雲海をPR素材として集客に結びつけたのは北海道のトマムリゾート。祖谷溪の雲海はスケールこそ北海道には及ばないものの、長く続けることで12月の風物詩として定着していくことでしょう。

宿泊客を無料で雲海ツアーに連れ出してくれるのは、ホテル祖谷温泉はじめ「大歩危・祖谷いってみる会」の旅館の皆さん。10年前から大歩危・祖谷地区の村おこしを率先しています。

大歩危・祖谷地区は、有名なかずら橋や大歩危峡のほか、うだつの町並み、祖谷の伝統的集落など地味ながら味のある資源が点在しています。その課題は、「いかにその魅力を伝えるか」。多くの地域で共通の課題かもしれませんが、PRを坦ってきたのも「いってみる会」。マスメディアの取材誘導はもちろん、旅行会社のパンフレットへの掲載など積極的な行動で、大歩危や祖谷溪の魅力を地味に、地味に、伝えてきました。その結果は、ファンの多さにつながり、しっかりと地域を支えています。

全国の地域が、PRする際に絶対してはいけないのが観光地の名前の押し売り。地域資源を編集し「物語」にして伝えなくては消費者の心には届きません。その編集作業こそ、地元で担わなくてはいけないのです。12月の雲海ツアーも編集された物語の一環ですが、その資源に多くの地元の方が気づかない!。その点が、まちおこしの決定的問題点だと思います。

出るかどうかわからない雲海のために朝5時に起きるのは勇気がいります。しかし、「今だけ」の素晴らしさを語る宿の方々の声に後押しされ、この日も10人以上の宿泊客が雲海ツアーに参加しました。

待つこと20分。雲海が谷を上ってきます。声にならない感嘆の声があちこちで漏れ、誰もが黙りこくります。間もなく東の空から太陽が上り、雲海は徐々に消えていく。その瞬間、「また見に来よう」という声。その声こそ観光地を創っていくのだと思います。

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